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マーチン・セリグマン博士を囲んで~マーチン・セリグマン博士との専門家会合~(2019年4月10日開催)

2019年4月10日 マンダリンオリエントホテル 朱鷺の間


出席者

Martin Seligman

Mandy Seligaman

小林正弥  千葉大教授

濱田総一郎 経営者、(株)パスポート社長

岩崎一郎  脳科学者

鳩山友紀夫 共和バンド顧問、東アジア共同体研究所理事長

首藤信彦  共和バンド代表



【概要】

(鳩山顧問挨拶)

セリグマンさんのポジティブ心理学を聞いて、大変刺激を受けました。首藤さんと私は民主党を立ち上げたわけですが、2009年にはその民主党政権が成立しました。その中で単なる経済成長ではなく、GDP至上主義のようなものから解放されて、「いかに人々が幸福であるか」という指標を作ってみようと考えた時がありました。しかし、その政権が短命であったことと、政権交代の直後にいわゆる311の東日本大震災、原発の事故が起こって、幸福の指標などというようなものに時間がかけられないような状況になってしまったという、残念な事情があります。


民主党政権時代に私がやりたかったことは、命を大切にする政治、即ち、一人一人の幸福をというものをいかにしっかり、大事にするかという、そういう政策を目指しました。その一つの理念として、「友愛」という理念があったわけですが、この友愛の中で重要なのは、自己が自立心を持つということとそれと同時に、共生すなわち、お互いの違いというものを、むしろ、楽しみあいながら、人として、お互いに助け合うことができる、そういう社会を作っていきたかったわけです。残念ながら、そのようなことに手をつけることができるようになる前に、鳩山政権は終焉を迎えてしまいました。しかし、私は今でも、このような友愛に基づいた政治を創り出していかなければならないと、思っております。その時に、これを単なる抽象的な概念としてではなく、しっかりした覚悟が必要だと考えておりますが、そんな時、セリグマンさんのポジティブ心理学との出会いがあったわけですが、そこで、一人一人の人間が、どう幸福であることができるか、その指標化をもう一度、試みてみたい、そのように考えております。その意味で、今日はご指導いただけたらと思います。


(セリグマン)

ありがとうございます。大変光栄に思います。また、本日このような話し合いの中で、何かしら、皆さまのお役にたてば、と思っております。


会議は最初に鳩山顧問、首藤代表および小林教授より、日本でのポジティブ心理学応用の取り組みついて説明があり、必ずしもポジティブ心理学あるいはPERMA(注)そのものではないが、行動経済学から発展した幸福経済学において日本人の幸福度を計測する試みがなされていること、さらに「幸福(Well-Being)」を政策目標とする政府および自治体レベルで動き、その例として荒川区の取り組み(ブータンと協定等)などが紹介された。そのあと専門家質疑に移行した。主要な質疑を下記に示す。


(注) ポジティブ心理学の5指標:Positive emotion(ポジティブ感情)、

               Engagement(精神没入)

               Relation(人間関係)

               Meaning(人生意味感)

               Achievement(達成感)を表す。


【質疑応答】

(Q)

ポジティブ心理学特にPERMAなどの幸福(well-being)を計測する指標を日本での政府レベルあるいは自治体レベルで政策決定に活用できるのではないかと考えている。その際の政治や社会へのパイロット調査にセリグマン教授そしてペンシルバニア大学ポジティブ心理学センターの協力が得られないか?

 また、第5回IPPAの際に、チクセントミハイ教授が、人類全体が幸福になるための「惑星憲章(Planet Charter)を提言したが、このように世界人権宣言のような幸福開花(flourishing)宣言やマニフェストのようなものを作ってはどうか?

 アジアではブータンの幸福指標やポジティブ心理学によって刺激された取り組みがあるが、たとえば国際ポジティブ教育ネットワークのような国際的ポジティブ政治ネットワークを創出するのはどうだろうか?


(Seligman以下S)

それは素晴らしい。そもそも私は個人の心理研究からスタートしたが、それには限界を感じていた。それを個人から一国、そしてまた政治の分野にまで拡大することには大変意義がある。アリストテレスは彼のエウダイモニア、幸福観を①教育②政治に拡大しようとしたが、自分もそうである。

 チクセントミハイ教授はすでに引退され後継者にマニフェストを託した。ポジティブ心理学の共同研究やパイロット調査などにはペンシルバニア大は喜んで協力する。

 PERMAを国家レベルでなく、地域・ローカルなレベルで適用するのは賢明である。政治はローカルを重視するようになっており、PERMAもローカルな適用を考えていくのは正しい。国際政治に適用する場合、異なった文化を前提とするから、慎重にその適用を考える。PERMAは国によって異なるという考えは私も理解している。今年7月にメルボルンで開催されるIPPAの会合に参加してはどうか?そこで意見を述べてはどうか?


(Q)7月会合のプログラムはすでに決まっていると思うので、そこで日本勢が発言するためにセリグマン教授からも大会側に一言伝えてほしい。


(S)メルボルン会合では自分と妻(Mandy)と二人で基調講演を行う。その際に、政治分野への応用についても話すつもりだ。基調講演の中でもそれについて触れよう。


(Q)私は脳科学の立場からポジティブ心理学の企業経営への応用を考える。ポジティブ心理学の立場からは、従業員が幸福であることが、良い経営、高い利潤を生むという分析だが、日本では必ずしも効果的ではないのではないか?


(S)具体的にどんなな批判があるのかを指摘してほしい。20年間ポジティブ心理学がスタートしてから皆に適用でき、皆に興味持ってもらい評価されてきたと思うが、どこにポジティブ心理学に対する具体的な抵抗感や批判があるか?

脳科学分野でも、私はかつてポジティブ神経科学の雑誌編集者をしたことがあった。400万ドルの基金を集めて運営した。ジョッシュ・クリー、エンディ・モアなどとも論文で協力した。脳の作用とポジティブ心理学との関係は重要で同感だ。しかし、あなたの主張するように、日本ではポジティブ心理学に対し人々はどういう具体的な反発があるのか?


(Q)ある会社の場合、従業員達は、自分達は十分働いているから、経営者に感謝する必要ないという。感謝(gratitude)はポジティブ心理学の重要な要素だが、従業員にとってのモチベーションは、経営者への感謝というより、経営側が与える罰則の方が効くと考える。


(S)基本的に、企業にせよ個人にせよ自分が痛手や不利益を被っているネガティブな状況では、罰則のようなものが効く。しかし、逆に企業や個人が成長し、創造的な気分でポジティブな状況ではPERMAが効く。良好な状態からもっとより良い状態にむけて効くのがPERMAだともいえる。


(S)土曜のセミナーの時にエド・ディーナー教授がポジティブ心理学の効果、それが企業の成長にポジティブな影響を与えることを説明する。彼の研究では、従業員が人生に対する満足度が高いと生産性も高まり、結果的に企業業績が向上し、株価上昇となることを証明している。

サバイバルと再生産・増殖では従業員の行動も異なる。ゼロサムゲームのような厳しい状況ではサバイバル志向となるが、再生産・増殖、創造性を重視する状況ではポジティブ心理学が効く。


(Q)セリグマン教授は、従業員の満足度が高いと企業業績が上がるというが、確かに相関関係があるかも知れないが、その因果関係は明確ではないのでは?従業員満足度が高いと業績があがるという可能性と、業績の高い良い企業で働く従業員の満足度が高いという可能性もある。原因結果関係が証明されているのか?


(s)Yes. エド・ディナー教授の原因結果の証明は明らか。個々人の満足度を長期間調査。生活満足度、生産性、欠勤率などを入れて証明。人生の満足度が業績につながる。二点について言いたい。

一つは、これからやろうと考えている実証研究だが、日本でデパート10店舗を開こうとする企業がある。そのうち、5店舗でもともとPERMAの高い従業員にトレーニングを行いPERMAを計測し追求しようとしている。

二つ目はトレーニングして追跡研究している件で、すでにエビデンスが出ている。残念ながら無作為抽出のサンプルではないが、無作為抽出・ランダムアサインメントが出来ない時はこれでやらざるを得ない。オクスフォード大研究で、ギャロップ調査従業員73か国、190万人、230社を対象にギャラップ調査を実施した。顧客ロイヤリティと従業員満足度で強力な証拠を得ている。


(S)さらに二点。先月ドバイで開催された世界政府会議で、40人ほどの世界の労働大臣・関係者を対象に証明が示された。雇用創出がテーマだった。

ポジティブ心理学では雇用創出は①仕事②キャリア③Calling天職(神の思召し)と分ける。「仕事」は要するに金銭により影響される、「キャリア」は昇進と関係し、昇進が止まると低下する。しかし、(Calling)は誰にいわれることなく、自分で判断する。自分の意思が大事だ。人は皆Callingに取り組む。それは決して高度な仕事だけではない。世間的に低いレベルの仕事とみなされている場合でも、Callingがある場合がある。人によってはCallingがある。

例を示そう。ある清掃会社の従業員は病院で清掃をしている。生計のための仕事として清掃担当のベッドメーキングやリネンサービスをしている。いうなれば低いレベルの「仕事」にすぎない。しかし、彼は担当の患者がベッドで寝ているときにいろんな写真や絵画を壁にはる。患者は目覚め起きてその絵をみて喜ぶ。彼は、自分は単なる清掃労働者ではなく、ヘルスケア・治療に参加しているのだと誇っている。これこそまさにCallingだ。Callingを増やしていくのがよい。自分はK・マルクスの労働疎外の主張は理解できる。しかしそれはあくまで労働であり「仕事」のレベルの話であって、Calling のカテゴリーの話ではない。

さきほど話題になった「感謝」についてもう少し言えば、自分は人間進歩を信じている。200年前人間の平均寿命は40才にすぎなかったが、今は80才に達している。200年前の人々の識字率10%程度だったが、今は90%、日本は100%だ。200年前栄養失調状態の人は90%もいたが、今は極端な貧困は10%程度に減少している。時代とともに概念も変わるものだ。


(Q)アメリカにおけるポジティブ心理学の社会応用の状況について聞きたい。州レベルあるいはそれ以下のコミュニティレベルでどのように使われているのか?


(S)残念ながら今は即座に答えられない。しかし、長期的にはポジティブ心理学の適用をローカルなレベルからスタートするのは正しい。政府が主唱しても利かなくても、地方では利くかもしれない。ローカルなレベル、よく知っている人が言えば聞くという傾向もある。企業経営でも同じだ。

PERMAを計測する際には、時間変化を把握することが肝心だ。しかし、イギリスのキャメロン政権がPERMAの計測調査を三か月ごとに20万人電話をかけて質問調査を実施したが、これではだめだ。費用が高すぎるし、人々はゲーミング(質問に率直に答える代わりに、その結果が自分に都合がよくなるように回答)する傾向があるから、人々の反応が真の反応であるとは限らない。

費用も少ないし、ゲーミングを避けることができる。

調査はまだ始まったばかりで、サンプル数も小さい。イギリス、スペイン、日本ではまだだ。イギリスではPERMA,反PERMAに関係する5万のフレーズ・単語を把握し、個々人に尋ねると

今、我々がやっているのは、フェイスブックやツイッターを監視し、そこに流れる膨大な情報の中からPERMAあるいは反PERMAのレベルを把握しようという試みだ。こうすれば前述のゲーミングの欠陥も回避できる。

今回のチームにアンガー教授が参加して金曜にいるが、彼やペンシルバニア大学が協力できる。アルゴリズムを作り、それができれば追加費用はいらない。日本語に転換するソフトは可能だ。ビッグデータから真の姿を把握できる。


(Q)私はアンガー教授を千葉大の同僚と会わせ、それを現実に進めたいと考えている。協力お願いできるか?


(S)まだそのレベルは誰もやったことがない。世界でも類がないが、ビッグデータを使ったこのような調査を日本で進めれば世界で初めての先進的な調査になる。自治体間で計測できれば、市長間の競争になるだろう。

ローカルなレベルでのPERMA計測だが、アンケートをするより、皆が生活にどう満足しているか


(Q)ポジティブ心理学はUAEでも採用され、幸福大臣まで設置しているが、イスラム圏において、そもそも幸福は神(アラー)が決めることで、イスラム教義では勝手に人間が幸福を求めたり計測してはいけないはずだが。。。

UAEはどういうやり方でその戒律規定を回避しているのか?またセリグマン教授はどのようなアドバイスをしているのか?


(S)イスラム教も変化するのではないか?キリスト教をベースとして考えれば、16Cごろ科学は神が創造した世界を観察するだけだったが、やがてフランシス・ベーコンが登場し、科学は対象を観察するだけではなく対象を変化させられるようになった。UAEは科学を重視し科学中心に物事を考えている。やがて神学にも変化が訪れるのでは。。

人間の自由や意思を無視してポジティブ心理学は存在しない。


(Q)私は経営の立場からポジティブ心理学に関心を持っている。人類は成長の限界から生存の限界に直面している。物質的な進歩よりも、価値観を変える段階にある。それが精神的な進歩だ。欲望充実の文明では限界があり、経済が発展しても気候変動や所得格差が広がったり、問題が多い。精神的な進化に軸足を移すべき。


(S)私も同意見。これは所得水準と人生の満足度を表すデータだ。近似曲線が相関関係を示すが、乖離している国もある。たとえばメキシコは、所得は高くないが幸福度は高い。逆のケースは日本だ。まず物質的な進歩には限界がある。デイビット・キャメロン前首相が数年前に言ったことは、次の世代は親より物質的に貧しく生まれる最初の世代となるということだ。先進国でも経済成長に限界がある。しかし、このグラフでも、よりよい生活の満足を改善する余地があることがわかる。人生の意味、家族のつながり、やりがいのある仕事、より精神的な進歩を追求すべきだ。日本にとって幸福とは何かを考える必要がある。このような精神的な追求こそが政治にとって重要となる。私の求める未来は、個々人の幸福が拡大していく社会だ。


(Q)自国ファーストのような国が出てきたが、政治にとって重要なのは、人類にとって「共通善」を求めることだ。


(S)個人のPERMAを増進させ、それが地球全体に広がって偏狭な民族主義から脱却させることが必要だ。不幸な状況ではどうしても民族主義的な思考になる。だから、やはり個人のPERMAを増進することが重要だ。民族主義を制限するのではなく、PERMAを増進する方向を選ぶべきだ。


(Q)このデータは時系列的変化、動態的な変化を表しているか?


(S)大変重要な指摘だ。国によっては豊かになるのは必ずしもPERMAの増進と密接ではない。必ずしもプラスの相関ではない。中国は経済的には急激に豊かになったのに、幸福度が下がったという調査もある。経済や寿命も人々の満足や幸福と完全に一致しているわけではない。PERMA指標を導入し、制度や文化も比較評価できるようにしたい。


(Q)このような幸福度調査をすると日本は経済的には先進国のレベルだが、幸福度のヒアリングは低い。これをジャパンパラドクスと言うが、日本は天変地異が日常化し、常に不幸に備える教育を学校も社会も行っているので、そうした考えが刷り込まれている。そういう要素が影響を与えるのではないか?

逆にアメリカのように常に明るい将来、ポジティブでHappyを目指す社会とは違う。概念が基本的にことなっており、さきほど民族主義の話が出たが、幸福の定義も違う文化や社会の概念をつなぐゲージを作らないと世界全体の比較はできない。アジアの中でも日本と中国はすごくちがう。


(S)同感だ。そうした考えは及ばなかった。文化の違いと同時に、それが動態的に変化する状況も把握しなければならない。政治的傾向を見るときに、スナップショットで横断的データをとっても意味がない。様々な政策が行われれば、その対象となった地域でPERMAがどのように変化したかを動態的に把握する必要がある。一瞬だけ比較しては意味ない。時系列でPERMAの変化を計測すべき。

次のデータは日本ではない。これは英米比較データだが、二国の線グラフがあり、どちらも経済成長を求めているが、実際はそうではない。日本とは違うが参考になる。


(Q)PERMAは異なる文化での適用も考えられる。経済観点で、企業の一部門のPERMAの変化を調べた。上位5店舗のPERMAは下位5店舗より高い。一般的な幸福感は明確には表されなかった。和太鼓で訓練してPERMAがどういう影響を与えるか調査したが、結果、認知機能は変わりないが、抑うつは減少し、PERMAは大幅増加した。日本でもPERMA指標を使ったほうが、他の指標より機能すると思う。PERMA指標の導入を文化を超えて行うことには意義があると思う。日本人は「幸福」とは言わないが、別な表現で同じような意味のことを表現している。


(Q)自分の刹那的な欲望でなく長期的幸せ(Well-Being)を増加させるように、従業員にも理解させる経営を考えている。PERMAは我々の経営にとっても重要なキーワードになる。


(S)刹那的な幸福と持続可能な幸福を分けてかんがえることが重要だ。PERMAのPはPleasureでもあり刹那的かもしれないが、EngagementやRelationは明らかに長期的なものだ。幸福の持続が重要だ。ただそれを特定する測定方法はまだ見つかっていないが、それを見出したい。


(Q)ポジティブ心理学と脳科学を結びつけることが重要でないか?


(S)そのように考える。将来はそうなる。


(鳩山)

 セリグマン教授長時間ありがとう。首藤さんと私は元国会議員、小林教授も政治に造詣の深い方です。日本はいまや人口減少時代に突入し社会のあり方を考え直さなければいけない状況にあります。ところが、現政権はアベノミクスのようにGDP拡大・経済成長優先主義をとり続けている、これは間違いだと私は考えています。

日本は定常経済、定常社会を念頭に個人がどのように生活に満足し幸福を実感できるような方策を考えていくべき時期にきている。その為にもポジティブ心理学のPERMAを活用したい。

しかし、そのためには何らかの政治活動・運動が必要となります。その目的のために政党あるいは政治活動の中でこのPERMAを生かしえ行きたいと考えている。セリグマン教諭には、今後それにアドバイスいただきたい。


(セリグマン)

それはすばらしい高貴な精神の取組であり、私がそれに携われるというのは光

栄です。今日のこの会議は自分の人生の中で最高のハイライトの一つだと思う。有難う。



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